『プロレス悪役シリーズ』(一峰大二:画、 真樹日佐夫:原作)は、1話完結で実在のレスラーを主人公に、虚実ないまぜのストーリー

『プロレス悪役シリーズ』(一峰大二:画、 真樹日佐夫:原作)は、1話完結で実在のレスラーを主人公に、虚実ないまぜのストーリー

『プロレス悪役シリーズ』(一峰大二:画、 真樹日佐夫:原作)は、1話完結で実在のレスラーを主人公に、虚実ないまぜのストーリーを展開するセミドキュメントコミックである。全5巻のうち、今回は第1巻のアントニオ・ロッカについて述べてみよう。

『プロレス悪役シリーズ』の悪役とは?

『プロレス悪役シリーズ』(一峰大二:画、 真樹日佐夫:原作)全5巻が、Amazon kindle Unlimited 読み放題のリストにあったので読了した。

今から40年も前に描かれた、1話完結で実在のレスラーを主人公にする、全48話のセミドキュメントコミックである。

具体的には、実在のレスラーの苦悩や自己実現などについて、虚実ないまぜのエピソードを加えてストーリーを膨らませている「昭和」らしい物語である。

昭和の時代に発表され、2006年に単行本として復刻された。

昭和プロレスの、セミドキュメントコミックというと、梶原一騎先生の『タイガーマスク』と『ジャイアント台風』が有名だが、実弟の真樹日佐夫先生の本作も、コミック刊行待望論がネットにはあった。


「懐かしくて涙が出ます」というAmazonのコメントも確認した。

取り上げられている日本でもおなじみの主なレスラーは、ダラ・シン、アントニオ・ロッカ、グレート・アントニオ、マーク・ルーイン、キラー・バディ・オースチン、ティモシー・ウッド(ミスター・レスリング)、ザ・シーク、ザ・マミー、カール・クラウザー(ゴッチ)、ザ・コンビクトなど、マニアならどんなストーリーか、関心を持たざるを得ないメンバーである。

いずれもご紹介したいストーリーばかりだが、今回はその中で、アントニオ・ロッカの巻についてフォーカスしよう。

アントニオ・ロッカがジャイアント馬場と戦った結末の違い

アントニオ・ロッカは、道場の教え子から金を取らない日系柔道家の谷圭一五段に厳しい攻撃をして、リングで絶命させてしまう。

それに対して、日本人として敵を取ると、ジャイアント馬場が名乗りを上げ、なぜかブラジルで対戦。

アントニオ・ロッカがリングアウト勝ちしたことになっている。

ジャイアント馬場は悔しがるが、アントニオ・ロッカが障碍児の施設を訪ねてリハビリに協力している光景を見て、「厳しすぎる悪役」であることがわかるような気がする、と納得して日本に帰るというストーリーです。

障碍者に比べたら、空手道場に通える子弟は恵まれているんだ、といいたいのか。

だからといって、谷圭一五段を絶命までさせなくても、というツッコミは措くとして、この真樹日佐夫さんは、繰り返すが、劇画原作者としてマンガ史に名を残す梶原一騎先生の実弟である。

しかし、このアントニオ・ロッカとジャイアント馬場の因縁については、兄弟で描き方が全く異なっている点が興味深かった。

『ジャイアント台風』第3巻239ページ、『プロレス悪役シリーズ1』190~192ページより

『ジャイアント台風』第3巻239ページ、『プロレス悪役シリーズ1』190~192ページより

梶原一騎(高森朝雄)原作の『ジャイアント台風』によると、アントニオ・ロッカは、ニューヨークの帝王と呼ばれ、プロレスの殿堂、マディソン・スクエア・ガーデンの超人気レスラー。

日系柔道家の谷圭一五段をリングで絶命させたところまでは同じだが、「ツギハオマエダ」と第二の犠牲者にジャイアント馬場を指名したものの、ジャイアント馬場には敗れ、以来人気を失い、寂しく故郷のイタリアに帰ったことになっている。

真相はどうだったのか?

では、真相はどうなのか。

アントニオ・ロッカのプロフィールは、謎に包まれているといわれている。

若い頃の、ジャイアント馬場と対戦したことは本当らしい。

が、引退後もニューヨークでテレビコメンテーターなどをつとめていたし、谷圭一五段という人はが実在したかどうかも定かではない。

要するに、梶原一騎、真樹日佐夫兄弟は揃って、実在のレスラーを勝手な創作で描いていたこことになる。

それでも、当時から誰も批判的に突っ込むものはなく、今も「騙された」と叩かれずに、読者はそのファンタジーを評価している。

なんていい時代だったのだろう。

虚実ないまぜの劇画に胸踊らせた昭和時代

思えば、昭和を過ごした少年たちは、梶原一騎先生の虚実ないまぜのストーリーに胸を躍らせた。

たとえば、『巨人の星』は、父親が志半ばにした退団した巨人で、体格に恵まれない主人公が、魔球を編み出してマウンドで奮闘する話だった。


巨人という球団が実在するのはもちろん、父親に引導を渡したのは当時の監督、川上哲治であり、主人公に野球は1人でするものではないことを教えたのは王貞治だった。

『タイガーマスク』は、孤児の施設で育った覆面レスラーが、ジャイアント馬場やアントニオ猪木や大木金太郎らに助けられ、実在する外国人レスラーと対戦もした。


その一方で、今回のように実在の主人公が架空のエビソードも加えられながら、ストーリーを展開する人物伝劇画も同様に人気があった。

『ジャイアント台風』は、ジャイアント馬場が巨人を自由契約になってからプロレス入りし、強豪外国人レスラーと戦いながら強くなり、インターナショナルチャンピオンになって、プロレスの神様と言われたルー・テーズに勝ち、タイトルを防衛するまでが描かれた。


ジャイアント馬場が、巨人をクビになったのも、アメリカで実力が開花したのも、ルー・テーズに勝ってタイトルを防衛したのも、すべて本当のことだ。


ただし、「強豪外国人レスラーと戦」う中身はフィクションだった。

実は当時は対戦した事実のない相手と戦っていたり、現実にはありえない「特訓」を行ったりシている。


たとえば、フリッツ・フォン・エリックと戦った「オデッサの惨劇」がそうである。

しかし、連載当時、そのフィクションによって、日本プロレスはフリッツ・フォン・エリックが来日するたびに会場が満員になった。

梶原一騎先生、真樹日佐夫先生イズムが心を捉える

梶原一騎先生、真樹日佐夫先生の創作は、改めて論評するまでもなく、ヒロイズムをとことん描ききるという姿勢に貫かれていた。

「な、この人はきっとこういう生き方だったんだよ」「こういう生き方があってもいいじゃねえか」と情熱的に述べられたら、真相はどうあれ、その人の創作を真とする立場に立って物語を堪能しよう、という気になれる。

もちろん、今はもうこうした物語の作り方は困難であり、新刊では見当たらない。

法律もあるし、そもそもこのネットの時代に、調べればすぐにバレるフィクションは成立し得ないだろう。

そういう意味では、現代は味気なくなったと言えるかもしれないが、それだけに、本書を読み始めたらハマってしまい、時間を忘れて続きが読みたくなるだろう。

AmazonUnlimited(読み放題0円)のほか、立ち読みサイトなどでも、一部無料で読むことが可能である。

以上、『プロレス悪役シリーズ』(一峰大二:画、 真樹日佐夫:原作)は、1話完結で実在のレスラーを主人公に、虚実ないまぜのストーリー、でした。

プロレス悪役シリーズ1 - 一峰 大二, 真樹 日佐夫
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