昭和プロレス懐古房

桜田一男「年金をもらっているけど全日本時代にアメリカに行ってる間も年金が支払われていた。馬場さん、ありがとう」

桜田一男「年金をもらっているけど全日本時代にアメリカに行ってる間も年金が支払われていた。馬場さん、ありがとう」
「馬場さん、ありがとう」。名前を名のらない助っ人を買って出て、タイガーマスクにそう感謝されたのは漫画の中のジャイアント馬場。しかし、そのシーンは実生活にもあった。支払われていた年金に謝礼を述べた桜田一男。かつてのケンドー・ナガサキである。

「年金の記録に「全日本プロレスリング」ってあったときにはビックリ」

今回ご紹介したいのは、『プロレスリングの聖域』(別冊宝島編集部、宝島)というムック。

Amazonのレビューを見ると、読者からは手厳しい注文も付いているが、レスラーのインタビューには興味深い証言もある。

たとえば、桜田一男のインタビューで、冒頭の「馬場さん、ありがとう」という話がある。

さっそくだが、引用しよう。

俺はいま少しばかり年金をもらっているけど、これは全日本時代に馬場さんが払ってくれたおかげなんですよ。馬場さんはたしかにケチだったけど、感謝もしている。1976年からずっとアメリカをサーキットしていて、その間、年金なんて頭にもなかったよね。だってギャラ自体はなかったわけだから。ところがあとになって全日本時代、ずっと会社が年金を払ってくれていたことが分かった。
 3年か4年前に、「自分の年金の状況を一度調べてもらったほうがいい」というアドバイスを受けて、年金事務所に行ったんだよ。そうしたら全日本所属時代、アメリカに行っている間もずっと年金が支払われていて、あと60万円くらい納めれば基礎年金の受給資格が発生することが分かった。
 本当に知らなかったから、年金の記録に「全日本プロレスリング」ってあったときにはビックリしてね。
馬場さん、ありがとう。(『プロレスリングの聖域』別冊宝島編集部、宝島社より)

これは、3つの点で注目すべき事実である。

プロレスラーが年金をもらえる

プロレスラーが年金をもらえる、ということ自体、驚異である。

プロレスラーは芸能人と同じで、会社に所属していても、あくまで業務上の契約関係に過ぎず、身分を守る雇用関係にあるわけではない。

つまり、社員ではない。

いったん社員にすると、立場が強くなるため、経営基盤が弱く、選手寿命が短いレスラーは職務の性質上、契約選手である方が妥当であると思われていた。

かつて、山本小鉄が、日本プロレスを退団時に退職金をもらったという話もあるが、社内規定の則ったものではなく、功労金扱いだったのだはないだろうか。

そんな中で、全日本プロレスのレスラーは社保完というのは異例のことである。

まあ、これまでのインタビューでも、たとえば阿修羅原が年金生活であることを明らかにしていたが、25年の掛け金の期間を満たすには、近鉄はもちろん、全日本プロレスの在籍期間に支払っておかないと受給は間に合わなかった。

また、鶴見五郎がフリーで全日本プロレスに参戦していたときは「保険も年金もない」と述べていたので、さも所属選手はあるような口ぶりだった。

ただ、桜田一男の場合は、日本プロレスからの合流組であり、合流時の契約は全日本プロレスではなく日本テレビだった。

そして、上記のインタビューでも、「日本テレビから給料は出ていた」と証言している。

だったら、なおさら、全日本プロレスが年金をかけてくれるとは思わなかっただろう。

桜田は全日本プロレス時代は鬼っ子だったのに!?

繰り返すが、桜田一男は日本プロレスからの合流組である。

しかも、日本プロレスが崩壊する少し前、離脱した坂口征二一派に腹を立て、対戦相手の大城勤を試合でボコった猛者である。

信頼を旨とするジャイアント馬場にとっては、警戒すべき人物である。

天龍源一郎のお世話役をさせてからアメリカにとばし、しばらく戻さなかった。

久しぶりに戻ってきたと思ったら、国際プロレスの日本リーグ争覇戦。

終了したら、フリーの石川孝志は全日本の世界最強タッグ決定リーグ戦に合流したのに、所属レスラーのミスターサクラダはまたアメリカに行ってしまった。

当初のポスターでは、ミスターサクラダの全日本のポスターに出ていたのに……だ。

やっと全日本プロレスに凱旋した開幕戦では、いきなりブッチャーにボールペン攻撃で血だるまにされた。

これは、ロッキー羽田の凱旋時と同じパターンである。

団体は違うが、谷津嘉章のデビュー戦とも似ている。

そして、またアメリカに。

次に帰ってきたときは、ドリームマシーンなる覆面レスラーにさせられ、外人側にまわった。

桜田一男が、全日本プロレスでシリーズの主役になったり、タイトル戦線に絡んだりしたことはついに1度もなかった。

そんな鬼っ子扱いの桜田一男も、所属選手時代はアメリカ遠征時も含めて、ちゃんと年金の掛け金を全日本プロレスは支払っていたのである。

ジャイアント馬場が黙っていた

もっとも注目すべきは、ジャイアント馬場が黙っていたことである。

まるで、名も知れない行為を良しとした、タイガーマスクのグレート・ゼブラのようではないか。

選手の離脱時、たとえば越中詩郎のときは、「小遣いをやって新弟子から育てたのに、それをかっさらうのは誘う方も誘う方だが行く方も行く方だ」というような“感情論”で対抗した。

が、おそらくは越中詩郎にも年金はかけられていただろうから、「我社の社員として福利厚生も継続されている」といえば、全日本プロレスの選手待遇が世間からは見直され、具体的な損害賠償だって請求できたのだ。

SWSに大量に選手が流れたときも、「実はあなた方にはこれだけ福利厚生の待遇をしている。試合報酬はこちらももう少し頑張るから、みんなで団体を支えてくれないか」といえたはずである。

もっとも、出ていくやつは、止めてもろくなことはない、すなわち去る者は追わずという考え方があったのかもしれない。

それにしても、ジャイアント馬場の全日本プロレスは、ともすれば徒弟制度のような会社であるかのように言われたこともあったが、「社員」としての待遇をレスラーにも行っていたことで、一応の辻褄が合う。

自分についてきてくれる人は、年金の面倒も見ますよ、ということだったのだろう。

今は、年金のある団体など、新日本プロレス以外考えられない。

非正規雇用以下のレスラー待遇が当たり前になっている中で、全日本プロレスの“厚遇”はきちんと評価すべきではないだろうか。


プロレス リングの聖域 –

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