昭和プロレス懐古房

『グレート小鹿の「小鹿注意報!」―黄金のプロレス伝説、ここにあり!!』(五月書房)は2000年代前半のブログが書籍化された

『グレート小鹿の「小鹿注意報!」―黄金のプロレス伝説、ここにあり!!』(五月書房)は2000年代前半のブログが書籍化された

『グレート小鹿の「小鹿注意報!」―黄金のプロレス伝説、ここにあり!!』(五月書房)は、2000年代前半のブログが書籍化されたものである。ジャイアント馬場に対する恨み節も含まれているが、是々非々で語れるのは誠実に仕事をしてきた証といえる。

「小鹿注意報!」とはなんだ

「小鹿注意報!」は、現在もライブドアブログで公開されている、グレート小鹿本人のブログである。

小鹿注意報!

もっとも、2021年3月21日を最後に更新が途絶えているのだが……。

それはともかくとして、ITmediaの調査報道によると、わが国のブログ人口は2000万人に到達したという。

日本人は約1億2500万人として、単純に計算すると、6人に1人がブログを持っていることになる。

2000万「人」ではなく2000万「ブログ」の間違いではないの?という気もするが、それはともかくとして、それだけたくさんの人が利用するなら、いろいろな利用の仕方ができる。

たとえば、2ちゃんねるから『電車男』が出たように、おもしろいブログを書籍にすることもできる。

「できる」というまでもなく、実際にブログから書籍になった例は多々ある。

たとえば、本書『グレート小鹿の「小鹿注意報!」―黄金のプロレス伝説、ここにあり!!』(五月書房)もそのひとつというわけだ。

グレート小鹿という最年長プロレスラーが、自らのプロモーションや会社(大日本プロレス)の広報活動にはじめたブログが、あるときYahoo!に紹介されてからアクセス数が急に伸び、編集者の目に留まって同名の書籍が上梓された、という経緯である。

2000年代前半の上梓であるが、あとにも書くように、当時のプロレス情報を反映したものになっている。

グレート小鹿とは誰だ

プロレスファンにとって、今更グレート小鹿の説明は必要ないだろう。

グレート小鹿といえば、力道山時代に日本プロレス入り。

私が最初にその名を知ったのは、プロレス雑誌でミル・マスカラスと抗争している頃であった。

あごひげと田吾作スタイルだが、日系ではなく日本プロレス所属。

第1回NWAタッグリーグに帰国し、吉村道明とのコンビだったが、開幕戦はシングルマッチで、相手レスラーがエプロンに上がってきたところを、レフェリーの目を盗んで足をすくったかしてリングアウト勝ちしていた。

要するに、正統派の日本人対反則をする外国人というパターンとは違う、ちょっとダーティーなファイトも採り入れた異色のキャラクターだった。

その後、ジャイアント馬場とアントニオ猪木が独立して日本プロレスが崩壊すると、ジャイアント馬場の全日本プロレスに合流。

グレート・ザ・カブキと高千穂明久を「別のレスラー」として考えると、外様としてはもっとも長く全日本プロレスのリングに上った。

そして引退後は、大日本プロレスを立ち上げた。

インディ団体が乱立する頃だから、いつまで続くかと思ったら、ちゃんと現在まで残っているのだからすごい。

上梓当時から現役最古参で、力道山時代から現在までを語れる唯一の人として、ファンや業界関係者としては当然、その書籍に注目した。

もちろん、私ものその一人だつた。

まさに、「戦後史としてのプロレス」を読んでみたかったわけだ。

記憶と心境で書かれたブログ記事をまとめたもの

内容は、現在も公開されているライブドアブログに残っていると思うが、プロレス評論家やライターなどが書いたものとは違い、そもそも事実経過に誤認があったり、主観が先行したりしているものが少なからず見受けられた。

まあ、個人ブログだから、そんなものなんですけどね。

よく読むと、「これは違うだろう」という箇所がいくつかあるが、たとえばこのへんだ。

ベテランレスラーのミツ・ヒライが引退するとき、出場選手がその日のギャラを持ち寄って慰労金として渡そうと提案。

長州力らが賛成したのに、ジャイアント馬場社長が反対したというくだりがある。

が、ミツ・ヒライが引退したのは1977年12月で、引退式は翌年8月の地元神戸大会だった。

長州力らの新日本プロレス脱退組が合流するのは、そこからはるかに先の1984年12月。

つまり、その事実はない、と第三者でも断言できる話である。

しかも、合流後まもなくグレート小鹿は頚椎を痛めて戦列を離れ、それがきっかけで結局全日本プロレスの契約を解除された。

要するに、グレート小鹿はそもそも長州力との接点自体ほとんどないはずではないのか。

私は最初、ミツ・ヒライではなくロッキー羽田の間違いではないかと思って読んでいたが、ロッキー羽田の引退より前に長州力は全日本プロレスを離脱しているし、その頃はすでにグレート小鹿は巡業からもはずされていた。

プロレス社会らしい興味深いエピソードもあった。

日本プロレスが興行できなくなり、社長として最後まで残った芳の里に給料を出すことを条件に、日本プロレスの資産(タイトルやトロフィーなど)を買い取る話を新日本プロレスと進めていたのに、ジャイアント馬場が途中から入ってきて、同じ条件でウチにそれを回してくれといってきたと書かれている。

交渉を任されていたグレート小鹿は、日本プロレスの選手残党が全日本プロレスの世話になっているから、ジャイアント馬場の頼みを断れなかったが、ジャイアント馬場は嘘をついてそれより実際には安い条件で買い叩いた、ということだ。

お金の交渉は、当事者しか知りえないことなので何ともいえないが、そもそも会社の資産を、代取社長とはいえ一役員に過ぎない長谷川淳三(芳の里)が、株主総会も役員総会もはからずに、なんで自分の裁量で自分の給料代わりに売り飛ばせるのか疑問である。

日本プロレスが、改めて会社の体をなしていないことが感じられる話だ。

ちなみに、私が日本プロレスの商業登記簿謄本をとったときは、役員の名は管財人以外は記されていなかった。

日本プロレスリング興業株式会社の登記簿の真相:昭和プロレス今昔:So-netブログ
先日、『日本プロレスリング興業株式会社の再興夢想実現せず!』という記事を書きました。コメントの中で、百田敬子版の日本プロレスでは? というご質問がありましたが、今日、『日本プロレス事件史 Vol.22』を読んでいて、答えが出ました。今日はそれについて書きたいと思います。 まず、当該記事にリ..

そういう怪しい会社だから、奇妙な約束をした上にそれを文書化できず、ジャイアント馬場にうやむやにされたのではないか。

もっとも、世間体を人一倍気にするジャイアント馬場が、グレート小鹿がいうような露骨な騙しをするのかは懐疑的だ。

つまり、芳の里に怨まれることによるデメリットなども考え、それに代わる待遇を用意してごまかしたのではないか。

そんなふうに考えた。

少なくとも芳の里はその後、6年間、日本プロレスはとっくに崩壊しているのにNWAの会員として名前が残っている。

ジャイアント馬場としては、自分の味方を残す意味もあったとは思うが、芳の里を、実態もないのにプロレス会社のオーナーとして顔を立て続けたということもいえる。

尊敬しつつも是々非々というのが本意

なぜ、こんなことを書いたのだろう、と考えると、ちょうどこの頃は、ジャイアント馬場が亡くなって神格扱いされる時期がひと段落して、その反動でアンチが盛り返す時期だった。

ブログも、ジャイアント馬場の悪口を書いたほうがトレンドというか、より注目されやすい状況にあったのだと思う。

ただし、これは、心底ジャイアント馬場を憎んでいた上田馬之助とはテイストが全く違う。

『金狼の遺言ー完全版ー』(辰巳出版)で上田馬之助がジャイアント馬場の冷遇と「密告の新事実」を激白しているが…
『金狼の遺言 ー完全版ー』(辰巳出版)を読んだ。遺言というが、眼目はジャイアント馬場との確執である。全日本プロレス時代冷遇され、大熊元司の葬儀にも声をかけてもらえなかったことを怨んでいる。意見は自由だが、第三者的に疑問符のつく箇所がある。…

グレート小鹿が、ジャイアント馬場に対して誠実な仕事をしていたのはよくわかるし、なのに曖昧なやり方で契約を解除されれば、文句の一つもいいたくなろうというものだ。

ただし、グレート小鹿は、一方で経営者としての苦労を自分の体験によって理解を示し、もとよりプロレスラー・ジャイアント馬場に対しては今も敬意を払っている。

ブログを再確認すると、2012年ぐらいかにらはジャイアント馬場の悪口は陰を潜め、プロレス史上に残る選手として敬意を払いながら、思い出話を書いている。

同じブログなのに、180度違う書き方だ。

最近でも、ジャイアント馬場のガウンを公表して話題になった。

要するに、ジャイアント馬場の存在を客観的には尊重しつつ、自分の体験から是々非々で語っているというわけだ。

悪口の部分だけは誤解を招くかも

それだけに、時期的に仕方なかったのかもれないが、悪口の部分だけをまとめたような本書は、全体としてのグレート小鹿のジャイアント馬場観とは違うので、きちんとわかっているファンでないと誤解を招くのではないか、という気がした。

繰り返すが、憎しみだけだった上田馬之助の場合とは違うのだ。

ジャイアント馬場メモリアルで、グレート小鹿はリングに上っていたが、上田馬之助だったら、かりに存命であったとしても、参加しなかったかもしれない。

というか、声がかからなかったかな。

いずれにしても、個人ブログとしてはそういうこともあっていいのだが、商品(書籍)としてみた場合、単行本と連載中の趣旨が180度違うとやはり読者は戸惑うのではないだろうか。

自分のブログがいずれは本になるかもしれない。

それは、多くのブロガーにとっての夢であり、目標かもしれない。

出版界にとっても、コストをかけずに有力な作家や作品を発掘できる機会でもあると思う。

それだけに、実際に書籍化する場合には、編集者がついて、きちんと手直しをして欲しいと思う。

以上、『グレート小鹿の「小鹿注意報!」―黄金のプロレス伝説、ここにあり!!』(五月書房)は2000年代前半のブログが書籍化された、でした。


グレート小鹿の馬鹿モン!文句あっか!! – グレート小鹿


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